「岩手の建設業はAIに遅れている」は本当か|県内調査で見えた別の姿

建設業2026.08.04

「岩手の建設業はAIに遅れている」は本当か|県内調査で見えた別の姿

現場が終わってから、事務所で書類を書く。岩手の建設会社では、ごく普通の光景です。

日中は現場に出ています。だから見積も、報告書も、打ち合わせの記録も、全部そのあとに回ります。

岩手の建設業はAIに遅れている。よくそう言われます。県内と全国のデータを並べてみると、そう単純な話ではありませんでした。

まず、時間の話からです。その書類仕事がどれくらいの量になっているか、県の統計に出ていました。

この記事でわかること

  • 岩手の建設業が、書類仕事にどれだけ時間を取られているか
  • 生成AIの活用率は低いのに、始めた会社では効果が出ているという事実
  • 見積まわりをはじめ、書類仕事で最初に任せられる3つの業務

最終更新日:2026年8月4日

岩手の建設業は、年に22日分よけいに働いています

岩手の建設業の労働時間は、県内の全業種平均より月14.6時間長くなっています。1年に直すと175時間。1日8時間で数えれば、およそ22日分です。

岩手県の「地域建設産業のあり方検討委員会」報告書(2026年4月公表)に、2024年の県内の産業別比較が載っています。建設業の平均月間実労働時間は158.7時間で、全業種平均は144.1時間。その差が月14.6時間です。

建設業
月間実労働時間

158.7時間

2024年・岩手県

全業種平均
月間実労働時間

144.1時間

2024年・岩手県

その差
1か月あたり

14.6時間

年175時間

そして、人は増えません。同じ報告書は、岩手県の生産年齢人口が2020年から2050年にかけて45.1%、約30万人減少すると推計しています。全国と比較して減少幅が大きいと明記されています。建設業就業者数は2000年をピークに減少傾向にあり、他産業と比較して平均年齢も高く、県内全域で高齢化が深刻だとされています。

人を増やして22日分を吸収する。その道は、これから細くなる一方です。

現場の時間は削れません。削れるとすれば、現場のあとに残っている書類の時間です。

では、その書類仕事に生成AIは使えるのか。岩手の建設業はいま、どこまで使っているのか。データで整理します。

生成AIを使っている建設業は、4社に1社です

全国調査で、生成AIを業務で活用している建設業は26.4%でした。業種別では下位です。

帝国データバンクが2026年3月に全国1万312社を対象に行った調査によると、生成AIを活用している企業は全体で34.5%。業界別に並べると、建設の位置がはっきりします。

図1|業界別の生成AI活用率(全国)

最も高いサービスと建設の差は、21.4ポイントあります。

サービス47.8%
金融38.6%
不動産34.9%
全体34.5%
運輸・倉庫27.5%
建設26.4%

出典:帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」(全国1万312社回答、2026年5月14日公表)。横軸は0〜50%。

東北に絞ると、さらに下がります。同じ調査の東北版(帝国データバンク仙台支店、東北6県748社回答、2026年6月5日公表)では、東北全体の活用率は30.1%。全国の34.5%を下回りました。規模別では大企業45.7%に対して、中小企業28.5%、小規模企業26.3%です。

ただし岩手の建設業は、県内でいちばん検討しています

県内調査では、建設業の3割超が生成AIの活用を検討しています。県内の他業種と比べても高い水準です。

いわぎんリサーチ&コンサルティングが2025年10月に実施した「岩手県内企業景況調査」(県内172社回答、2025年11月21日公表)によると、県内企業の生成AI活用状況は次のとおりでした。

図2|岩手県内企業の生成AI活用状況

未活用でも関心がある層が、全体の4分の1を占めています。

15.2
26.2
23.2
35.4
活用している
活用を検討している
活用する予定はない
未定

出典:いわぎんリサーチ&コンサルティング「岩手県内企業景況調査 2025年10月調査」(県内172社回答、2025年11月21日公表)。単位は%。

このうち建設業は「活用を検討している」が3割を超えました。県内では、運輸・サービス業と並んで前向きな層です。

考えている割合は県内で高い。使っている割合は全国で低い。この落差が、いまの岩手の建設業です。

始めた会社は、9割近くが効果を実感しています

この記事でいちばんお伝えしたいのは、ここです。

前述の帝国データバンクの調査で、生成AIを活用している企業に業務への効果を尋ねたところ、「大いに効果が出ている」25.2%と「やや効果が出ている」61.5%を合わせて86.7%が効果ありと回答しました。そして同調査は、業界別に見ても建設は効果ありが高水準にあると明記しています。

活用企業の
効果あり

86.7%

建設業も高水準

「大いに効果」
小規模企業

29.7%

大企業を上回る

「大いに効果」
大企業

20.8%

建設業は、生成AIが効かない業種ではありません。低いのは活用率であって、効果ではない。

しかも、規模の小さい会社ほど手応えが大きく出ています。「大いに効果が出ている」と答えた割合は、小規模企業で29.7%と、大企業の20.8%を上回りました。人手が限られている会社ほど、書類の時間が減った実感は大きくなるということです。

止まる理由は「使い方が分からない」です

使わない理由の1位は、費用でも不信感でもありません。「使い方が分からない」です。

総務省『令和8年版 情報通信白書』(2026年7月24日公表)によると、日本で生成AIを使わない理由の最多は「使い方が分からない」で38.8%でした。個人の利用経験率は58.8%まで伸びましたが、それでも4割近くが入口で止まっています。

会社側の数字は、もっとはっきりしています。同じ白書で、日本企業の86.4%が1つ以上の業務で生成AIを利用していると回答しました。前年度の55.2%から31.2ポイントの上昇です。ただしこの調査は、従業員10名以上かつ2025年までにデジタル化に着手した企業515社の回答なので、日本の全企業を表す数字ではありません。そのうえで見ていただきたいのが、次の図です。

図3|生成AIについて「組織的な取組はない」と答えた企業の割合

日本はドイツの5倍以上、米国の19倍以上です。

日本27.0%
ドイツ4.9%
中国2.6%
米国1.4%

出典:総務省「令和8年版 情報通信白書」(2026年7月24日公表)。横軸は0〜30%。

個人としては使っている。会社としては使っていない。この形が日本の特徴です。

その先に何が起きるかも、数字に出ています。東北の企業調査(帝国データバンク仙台支店、2026年3月実施)では、生成AIによる悪影響として「使いこなし格差の拡大」を挙げた企業が20.0%ありました。懸念・課題の1位は「情報の正確性」49.2%、2位が「生成AIを活用すべき業務の範囲」43.7%、3位が「専門人材・ノウハウ不足」43.0%です。

建設業は、現場と事務の分担がはっきりしている会社が多い業種です。会社として使い方を決めないまま個人任せにすると、この格差は静かに広がります。

最初に任せるのは、書類まわりの3つです

建設業で生成AIを使い始めるなら、現場の判断ではなく、書類の下ごしらえからです。県内企業もすでにそう使っています。前述のいわぎんリサーチ&コンサルティングの調査(2025年10月)では、用途の1位が「文章の作成・要約・校正」67.6%、2位が「情報収集」64.7%、3位が「資料作成」54.4%でした。

1. 見積まわりの文章

AI仕様書から見積の前提条件を箇条書きに起こす。過去の類似案件の見積条件を要約する。客先に出す見積説明文の初稿を作る。
人金額と数量。拾い出しと積算は、これまでどおり既存のソフトか手計算。

2. 報告書と打ち合わせ記録

AI短いメモや録音の文字起こしから初稿を作る。議事録は、決まったこと・宿題・期限の3つを抜き出させる。
人その記述が現場の事実と合っているか。

3. 客先メールと社内文書

AI要件の箇条書きから文面の初稿を作る。
人相手との関係に照らして、表現が適切か。

3つに共通しているのは、生成AIが作るのは初稿だという点です。初稿はAI、判断は人。最初から全部やろうとせず、1つ決めてそこだけ変える方が定着します。

よくある質問

建設業でも本当に使えますか

書類まわりの業務であれば使えます。全国調査では建設業の活用率は26.4%と業種別で低い水準ですが、活用している企業の86.7%が業務への効果を実感しており、建設業も効果ありが高水準です(帝国データバンク、2026年3月調査)。現場の判断ではなく、報告書や議事録の下書きから始めるのが現実的です。

図面や見積を入れても大丈夫ですか

入れてよい情報と、いけない情報を先に決めてください。発注者名や個人情報、未公開の見積金額は入れない、というルールが基本になります。法人向けのプランには入力内容を学習に使わない設定が用意されているものもあるので、契約形態の確認から始めるのが安全です。

パソコンが苦手な社員が多いのですが

操作の難しさより、最初の頼み方が分からないことの方が壁になります。生成AIを使わない理由の1位は「使い方が分からない」で38.8%でした(総務省『令和8年版情報通信白書』2026年7月公表)。よく使う頼み方をいくつかテンプレートにして配ると、この壁は大きく下がります。

先に使い始めた人だけが得をしませんか

その懸念は数字にも表れています。東北の企業調査では、生成AIによる悪影響として「使いこなし格差の拡大」を挙げた企業が20.0%ありました(帝国データバンク仙台支店、2026年3月調査)。個人任せにせず、会社として同じ使い方を共有することが、格差を広げない方法です。

研修費用に使える助成金はありますか

あります。国の人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)は、社内のDX化に必要な知識を習得する訓練が対象で、中小企業の経費助成率は75%です。訓練時間が10時間以上であること、計画届を訓練開始日の1か月前までに提出することが要件になります(厚生労働省リーフレット、2026年)。岩手県内の事業所は岩手労働局が窓口です。

生成AIとChatGPTは何が違うのですか

ChatGPTは生成AIサービスのひとつです。ほかにGeminiやClaudeなどがあり、いずれも文章の作成や要約、情報の整理ができます。建設業の書類仕事で使う範囲であれば、どれを選んでもできることは大きく変わりません。まず1つ決めて、社内でそろえる方が定着します。

遅れているのではありません。始めていないだけです

岩手の建設業は、県内でいちばん生成AIを検討している業種です。それでも実際の活用率は業種別で下位にあります。そして、始めた会社では効果が出ています。

足りていないのは、関心でも予算でもありません。使い方です。

人が増える見込みが薄い県で、年22日分の書類の時間を取り戻す。まず1業務から始めるのが、いちばん確実です。

最初の1業務をどれにするか。
そこだけ決まれば、あとは進みます。

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出典:岩手県「地域建設産業のあり方検討委員会(岩手県)報告書 概要版」2026年4月公表/帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」2026年5月14日公表/帝国データバンク仙台支店「東北地方・生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」2026年6月5日公表/いわぎんリサーチ&コンサルティング株式会社「岩手県内企業景況調査 2025年10月調査(生成AIの活用について)」2025年11月21日公表/総務省「令和8年版 情報通信白書」2026年7月24日公表/厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」案内リーフレット

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