岩手の介護、教える時間を食っていたのは書類|半数が研修時間を取れず
夜勤が明けて、詰所のパソコンに向かう。手元のメモを見ながら、その日の様子を打ち込んでいく。同じことを申し送りのノートにも書く。家族への連絡帳にも、もう一度書く。書き終える頃には、日が高くなっている。
介護の現場で人が育たない理由を聞くと、返ってくるのは人手と金の話です。人がいないから教える余裕がない、報酬が上がらないから人を増やせない。
ところが、国の調査に答えた岩手県内の介護事業所108件を見ると、その手前にもう1つ挟まっています。教える時間を食っているのは、書類の時間です。
そして書類は、介護の仕事のなかで唯一、生成AIが正面から手を出せる場所でもあります。
この記事でわかること
- 岩手の介護事業所が、いま何を運営上の課題だと答えているか(国の調査の岩手分・108事業所)
- 介護の書く仕事と、生成AIが得意な仕事がどこで重なるか
- 岩手の介護現場は、生成AIに渡す材料をもう持っているという話
最終更新日:2026年8月27日
岩手の介護事業所の半数が、研修の時間を取れないと答えています
岩手県内の介護事業所の50.0%が、運営上の課題として「教育・研修の時間が十分に取れない」を挙げています。全国は39.3%なので、10.7ポイント高い水準です(出典:介護労働安定センター『令和7年度介護労働実態調査』令和8年7月29日公表、令和7年10月調査、岩手県内108事業所の回答。複数回答)。
その1つ下、49.1%に「指定介護サービス提供に関する書類作成が煩雑で、時間に追われている」が並びます。
図1|岩手の介護事業所が挙げた、事業を運営する上での課題
上位2つは報酬と採用で、事業所の努力では動かしにくい。3番目と4番目だけが、自分たちで手を入れられる。
出典:介護労働安定センター『令和7年度介護労働実態調査』令和8年7月29日公表、令和7年10月調査。岩手県内108事業所の回答(複数回答)。横軸は0〜70%。
上の2つは、報酬制度と労働市場の話です。1つの事業所が明日から動かせるものではありません。下の2つは違います。書類にかかっている時間が短くなれば、そのぶんが教える時間に戻ります。
岩手の介護事業所の30.6%が「介護業務の知識や技術が不足している」とも答えています。全国は23.3%です。教える時間が取れないまま、知識が足りないと感じている。この順番でつながっています。

企業が生成AIに一番やらせているのは、文章を書く仕事です
全国の企業が生成AIを使っている用途は「議事録・メール作成補助」が約7割で、事務作業の効率化に偏っています。生成AIを1つ以上の業務で使っている企業は86.4%まで来ました。2024年度の調査では55.2%だったので、1年で31.2ポイント上がっています(出典:総務省『令和8年版情報通信白書』2026年7月24日公表)。
言い換えると、生成AIがいま実際に稼いでいるのは、体を動かす仕事ではなく、書く仕事です。
介護の仕事は、その両方でできています。体を使う仕事は人にしかできません。ただし介護記録、申し送り、家族への連絡帳、行事の案内、手順書、研修資料と、書く仕事も同じだけ積み上がっています。生成AIが手を出せるのは後者だけで、その後者が、いま岩手の介護から教える時間を奪っています。
岩手の介護は、書いたものをすでにデジタルで持っています
岩手の介護事業所の71.3%が、ケア記録やケアプランを入力・保存・転記するソフトを日常的に使っています。全国は72.2%とほぼ同じ水準です。施設内のWiFi設備も59.3%で、全国の53.9%を上回りました。
紙のまま眠っているのではなく、書いたものはすでに文字のデータとして手元にあるということです。生成AIに渡す材料という意味では、条件は整っています。
ケア記録ソフト
日常的に利用
71.3%
全国は72.2%
施設内のWiFi
日常的に利用
59.3%
全国は53.9%
話した言葉を文章に
日常的に利用
15.7%
全国は13.2%
渡す材料はあるのに、渡していません
同じ調査で、話した言葉を文章に変える機能を日常的に使っている岩手の事業所は15.7%でした。タブレットやスマートフォンで使っている分を足しても18.5%です。
7割が記録をパソコンで扱っているのに、打ち込みそのものを軽くする機能は6事業所に1つしか使われていません。職員どうしの報告・連絡・相談をソフトでやりとりしているのも35.2%で、こちらは全国の41.1%を下回りました。
| ケア記録の入力・保存・転記 | 岩手71.3% / 全国72.2% |
|---|---|
| 話した言葉を文章に変える(パソコン) | 岩手15.7% / 全国13.2% |
| 同(タブレット・スマートフォン) | 岩手18.5% / 全国16.0% |
| 職員間の報告・連絡・相談 | 岩手35.2% / 全国41.1% |
入れる箱は持っている。埋める作業だけが、いまも手のままです(出典:介護労働安定センター『令和7年度介護労働実態調査』令和8年7月29日公表、岩手県内108事業所の回答)。

生成AIに渡せるのは、介護の書く仕事の4つです
介護の仕事のうち、生成AIを最初に入れる先は4つに絞ります。多く並べても、結局どれも始まりません。共通しているのは、どれも下書きまでを渡して、最後は人が決める形です。
介護記録の下書き
その日の様子を口で説明したものを、記録の文章に起こす使い方です。同じ内容を、申し送りの形と家族向けの連絡帳の形に書き分けさせることもできます。人によってばらつく専門用語の表記も揃います。
話した内容を記録の文章にする。用語の表記も揃える。
事実と違う記述がないかを確かめる。
家族へのお知らせと報告文
行事の案内、面会ルールの変更、請求まわりの連絡など、家族に向けて出す文章です。介護の側では当たり前の言い方が、家族には伝わらないことがあります。専門用語を日常の言い方に置き換えるところは、生成AIが速い。
案内文の下書きを作る。専門用語を言い換える。
どこまで伝えるかを決める。
手順書と新人向けの説明資料
研修の時間が取れない、という課題に直接効くのがここです。ベテランが口頭で説明していることを、順番のある手順書にする。話した内容をそのまま渡せば、形にするところは生成AIがやります。
口頭の説明を、手順書の形にする。
事業所のやり方と違う箇所を直す。
シフトや行事の連絡文
職員向けの連絡も、書く仕事の一部です。岩手で職員間の連絡をソフトでやりとりしているのが35.2%にとどまっているのは、そこに手間がかかっているからでもあります。
決まった内容を連絡文にまとめる。
誰に何を伝えるかを決める。
線引きも書いておきます。ケアプランとアセスメントの作成は、介護支援専門員の業務です。生成AIに任せてよいのは下書きと文章の整理までで、内容の判断と、記録として確定させる責任は人が持ちます。
情報の扱いも先に決めます。利用者の氏名や心身の状況は、個人情報保護法上の要配慮個人情報にあたります。何を入力してよいかを事業所として決めてから使い始めてください。個人が特定されない形に置き換えてから渡すのが基本です。

止まる理由の1位は「使い方が分からない」で38.8%
生成AIを使わない理由として最も多いのは「使い方が分からない」で38.8%です。費用でも、リスクでもありません。
あわせて見たいのが、日本の企業の27.0%が「組織的な取組はない」と答えている点です。アメリカは1.4%、ドイツは4.9%、中国は2.6%で、日本だけが突出しています(出典:総務省『令和8年版情報通信白書』2026年7月24日公表)。
誰かが手元で触ってはいるが、事業所として何に使うかを決めていない。研修の時間が取れないと答えている事業所で、この状態が続きやすいのは想像がつきます。決めるところまでを含めて時間を作らないと、個人の工夫で終わります。
岩手県内で生成AIを活用している企業は15.2%です
介護に限らず、岩手県内の企業で生成AIを活用しているのは15.2%、検討しているのが26.2%です(出典:いわぎんリサーチ&コンサルティング『岩手県内企業景況調査』2025年10月調査、2025年11月21日公表)。
この調査の業種区分は運輸業とサービス業の合算で、介護はそのなかに含まれます。合算の数字は活用23.8%で県内では高いほうですが、介護だけを取り出した公表値は確認できません。岩手県が公表する介護事業所単独の活用率も、現時点では見つかりません。
分かっているのは、県全体でまだ6社に1社という段階だということです。始めた側に回るのが難しい時期は、もう過ぎています。
よくある質問
Q.生成AIに書かせた介護記録は、記録として認められますか。
記録の正確性と保存の責任は事業所にあります。生成AIが作るのは下書きで、内容を確認して記録として確定させるのは人の仕事です。下書きをそのまま保存せず、確認の手順を業務の中に入れておいてください。
Q.利用者の名前や心身の状況を入力してもよいですか。
利用者の氏名や心身の状況は要配慮個人情報にあたるため、事業所として入力してよい範囲を先に決めてください。個人が特定されない形に置き換えてから渡すのが基本です。使うサービスの規約で、入力した内容が学習に使われるかどうかもあわせて確認します。
Q.ケアプランを生成AIに作らせてもよいですか。
ケアプランとアセスメントの作成は介護支援専門員の業務です。生成AIに任せてよいのは下書きや文章の整理までで、内容の判断と責任は人が持ちます。下書きをそのまま計画として使うことは想定されていません。
Q.介護ソフトの音声入力と、生成AIは何が違いますか。
音声入力は、話した言葉を文字にするところまでを担います。生成AIは、文字になったものを記録の形に整えたり、家族向けの言い方に直したりするところを担います。前者が入力で、後者が編集です。両方そろって初めて、書く時間が短くなります。
Q.いまの介護ソフトを入れ替える必要がありますか。
入れ替えなくても始められます。生成AIは介護ソフトの外側で使えるので、下書きを作ってから記録ソフトに貼る形で回せます。ソフトの入れ替えを検討するのは、その使い方が定着してからで間に合います。
Q.職員がパソコンに慣れていなくても使えますか。
生成AIは日本語の文章で指示する道具なので、覚えることは操作よりも頼み方です。ただし放っておいて広がるものでもありません。最初に事業所として使う場面を決めて、その場面だけを全員で一度やってみる形が現実的です。
書類の時間が戻れば、教える時間が戻ります
岩手の介護事業所が挙げた課題のうち、上位2つは報酬と採用の話で、1つの事業所では動かせません。動かせるのは3番目と4番目です。
そして、その2つはつながっています。書類に取られている時間が、教える時間を食っている。生成AIが手を出せるのはまさにその書く仕事で、渡すための材料は、岩手の介護現場にもう揃っています。
先に決めるのは、どのツールを買うかではありません。どの書き仕事から手を離すか、です。
書類に取られている時間は、放っておいても戻ってきません。
どの書き仕事から手を離すかを決めるところからです。
WEB3工務店|岩手・盛岡の法人向けAI・DXリスキリング研修
対面で、実際の業務を1つ片付けるところまで一緒にやります。
あわせて読みたい
出典:介護労働安定センター『令和7年度介護労働実態調査』令和8年7月29日公表(https://www.kaigo-center.or.jp/report/jittai/)/総務省『令和8年版情報通信白書』2026年7月24日公表(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/)/いわぎんリサーチ&コンサルティング『岩手県内企業景況調査』2025年11月21日公表(https://www.iwaginirc.co.jp/)

