岩手の運送業のAI活用率は県内トップ|全国は半数が「まだ先」

コラム2026.08.10

岩手の運送業のAI活用率は県内トップ|全国は半数が「まだ先」

岩手県内のハローワークで、自動車運転の仕事は1,000人分の求人に対して、応募できる人が577人しかいません。有効求人倍率で1.73倍です(出典:岩手労働局『常用求人・求職バランスシート』令和8年6月、一般及びパートの合計)。

同じ月、岩手県全体の有効求人倍率は0.97倍でした。1を下回っています。県全体で見れば、仕事の数より仕事を探している人の数のほうが多い。そのなかで、運転者だけが突出して足りていません。

一方、全国の運送業の経営者の半分は「5年後も自分の業界でAIの活用は限定的」と見ています。ところが岩手の数字を並べると、逆の風景が見えます。岩手県内で生成AIを最も使っている業種は、実は運輸・サービス業です。

この記事でわかること

  • 岩手では運転者の求人倍率が1.73倍、一般事務は0.23倍。同じ会社の中で、人の集まり方が正反対になっていること
  • 全国の運送業は「5年後もAIは限定的」が半数。その一方で、岩手の運輸・サービス業は生成AI活用率が県内トップであること
  • 中小企業がいちばん足りないと答えた情報は「活用事例」。その事例が、まだ世の中にほとんど無いこと

最終更新日:2026年8月10日

岩手で運転者の求人倍率は1.73倍、県全体は0.97倍です

岩手県の自動車運転従事者の有効求人倍率は1.73倍で、県全体の0.97倍を大きく上回っています(出典:岩手労働局『常用求人・求職バランスシート』令和8年6月)。求人1,000人分に対して、求職者は577人です。

この数字が示しているのは、運送業の人手不足が景気の問題ではないということです。県全体の倍率が1を切っている、つまり岩手全体では働き口のほうが少ない状況でも、運転席だけは埋まりません。

図1|岩手県の職業別 有効求人倍率(令和8年6月)

県全体は0.97倍で1を下回るのに、自動車運転は1.73倍。人の集まり方が職業によって正反対になっている。

建設・採掘従事者2.96倍
介護サービス職業従事者2.01倍
自動車運転従事者1.73倍
岩手県 職業計0.97倍
一般事務従事者0.23倍

出典:岩手労働局『常用求人・求職バランスシート(令和8年6月)【一般及びパートの合計】』局計、月間有効求人・求職に基づく。横軸は0〜3.0倍。

県内でも地域差があります。盛岡公共職業安定所の管内では自動車運転が1.83倍、釜石公共職業安定所の管内では0.49倍でした(同資料)。内陸と沿岸で、必要とされている職種が違います。

一般事務は0.23倍。1つの仕事に4人以上が並んでいます

同じ岩手県で、一般事務従事者の有効求人倍率は0.23倍です。求人1,164人分に対して、求職者が5,129人います(出典:岩手労働局『常用求人・求職バランスシート』令和8年6月)。事務の仕事1つに、4人以上が並んでいる計算になります。

運転者は集まらない。事務職は余っている。同じ県の同じ月に、これだけ逆の現象が起きています。

普通に考えれば、事務は人を雇えば済む話です。しかし運送会社の多くは、その規模ではありません(出典:国土交通省物流・自動車局貨物流通事業課『貨物自動車運送事業者数(規模別)』令和7年3月31日現在)。

従業員10人以下 30,759事業者(49.3%)
従業員11〜20人 13,718事業者(22.0%)
車両10両以下 34,164事業者(54.8%)
全事業者数 62,383事業者

半分は従業員10人以下です。事務専任を1人増やす選択肢が、そもそも予算に乗りません。結果として、日報も請求も荷主への連絡も、運行管理者と運転者本人が抱えます。採れない人材の時間を、採れる人材でもできる仕事が食っている状態です。

東北のトラック運転者は、全国より年収で約100万円低い水準です

東北ブロックの男性トラック運転者の賃金は、賞与を含めた月額で339,900円でした。全国平均は423,300円です(出典:全日本トラック協会『2025年度版 トラック運送事業の賃金・労働時間等の実態』令和8年7月1日公表、令和7年5〜7月支給分、調査対象4,624社・有効回答589社)。差は月あたり83,400円、12か月分では約100万円になります。

東北の男性運転者
月額賃金

31.2万円

全国は37.5万円

全国平均との差
賞与込み月額×12か月

100万円

東北のほうが低い

東北の男性運転者
平均年齢

51.3

全国は50.0歳

東北の水準は、全国10ブロックのうち沖縄に次いで低い位置にあります。平均年齢51.3歳は全国平均の50.0歳を上回り、こちらは高いほうから2番目です(同調査)。賃金が低く、年齢が高い。募集をかけても新しい人が入らない構造です。

賃上げが答えなのは事実です。ただし運賃に転嫁できなければ原資がなく、岩手県内企業の経営上の問題点の1位もすでに「人件費の増加」68.0%です(出典:いわぎんリサーチ&コンサルティング『岩手県内企業景況調査』2025年10月調査、2025年11月21日公表)。人を増やす道も賃上げの道も狭いなら、先に空けるのは、いまいる人の時間のほうです。

全国の運送業の半分は「5年後もAIは限定的」と見ています。岩手は逆でした

まず、全国の運送業の現在地を数字で3つ並べます。

  • 生成AIを活用している運輸・倉庫業は27.5%。全産業平均34.5%を下回る下位の業種です(出典:帝国データバンク『生成AIに関する企業の動向調査』2026年3月調査、有効回答10,312社)
  • 運輸業の経営者の50.6%が「5年後も業界全体としてのAIの活用は限定的」と回答。全業種で最も高い割合です(出典:商工中金『中小企業の生成AIの利用にかかる調査』2026年1月調査・3月31日公表、運輸業の回答431社)
  • 同じ回答は情報通信業では16.7%。運輸業とは3倍の開きがあります(同調査)

使っている割合が低く、この先も変わらないと自分の業界を見ている。それが全国の運送業の平均的な姿です。

ところが岩手では、順位が逆転します。県内で生成AIを「活用している」割合が最も高い業種は、運輸・サービス業の23.8%です(出典:いわぎんリサーチ&コンサルティング『岩手県内企業景況調査』2025年10月調査、2025年11月21日公表)。全産業平均15.2%の1.5倍を超えます。

図2|岩手県内企業の業種別「生成AIを活用している」割合

運輸・サービス業が23.8%で県内トップ。建設業9.1%とは2.6倍の開きがある。

運輸・サービス業23.8%
製造業16.4%
全産業15.2%
卸・小売業13.6%
建設業9.1%

出典:いわぎんリサーチ&コンサルティング『岩手県内企業景況調査』2025年10月調査、2025年11月21日公表、図表10。横軸は0〜25%。同調査の分類は「運輸・サービス業」の合算であり、運輸業単独の値ではない。

断っておくと、いわぎんの調査の分類は運輸業とサービス業の合算です。運輸業だけを取り出した岩手県単独の活用率は、公表値を確認できていません。それでも、この業種区分が県内で最上位という事実は動きません。「未定」と答えた割合も19.0%で県内の業種のなかで最も低く、決めかねている会社が少ない業種でもあります。

効果も出ています。東北で生成AIを活用している企業のうち85.8%が、効果があったと回答しています(出典:帝国データバンク仙台支店『東北地方・生成AIに関する企業の動向調査』2026年3月調査、東北6県748社回答、2026年6月5日公表)。全国では諦めが先に立ち、岩手では活用が先に立っています。

使われているのは運転席ではなく、事務机の上です

では、使っている会社はどこで使っているのか。運転席ではありません。全国の中小企業でAIを導入した企業を業務部門別に見ると、総務・管理部門が68.3%で最も高く、製造・生産部門は34.9%です(出典:中小企業基盤整備機構『中小企業のAI等の利活用に係る実態調査』令和7年11〜12月調査、2026年3月公表、全国の中小企業1,668社回答。業種を問わない全国調査)。管理部門が現場部門の2倍近く使っています。

図3|AI導入済みの中小企業における業務部門別の導入率(全国・全業種)

総務・管理部門68.3%に対し、製造・生産部門は34.9%。AIが効いているのは管理側の仕事。

総務・管理部門68.3%
営業・販売・サービス部門60.3%
経営・企画部門58.5%
製造・生産部門34.9%

出典:中小企業基盤整備機構『中小企業のAI等の利活用に係る実態調査』令和7年11月17日〜12月12日調査、2026年3月公表。全国の中小企業10,000社に配布、有効回答1,668社。業種を問わない全国調査。横軸は0〜80%。

中身も同じ方向です。全国の中小企業で生成AIを積極活用している層の活用事例は、1位が「メール/報告書/議事録の作成・要約」74.0%で、「現場業務/対人業務支援・自動化」は9.5%にとどまります(出典:商工中金『中小企業の生成AIの利用にかかる調査』2026年1月調査。業種を問わない集計)。導入済みの中小企業が使っているAIサービスも、生成AIが82.6%で最多でした(出典:前出・中小企業基盤整備機構調査)。

専用システムではなく汎用の生成AIで、現場ではなく書類仕事から。全国の中小企業で起きていることは、運送会社の事務所でそのまま再現できる形をしています。

「事例を見てから」の事例は、まだ世の中にありません

中小企業がAI導入で足りないと感じているものを並べると、答えは道具ではありません。事例です(出典:中小企業基盤整備機構『中小企業のAI等の利活用に係る実態調査』2026年3月公表/商工中金『中小企業の生成AIの利用にかかる調査』2026年1月調査)。

最も不足している情報
「成功事例・活用事例」

83.3%

中小機構調査

国に求める支援
「導入事例などの情報提供」

70.5%

費用助成に次ぐ2位

導入前の課題1位
「具体的な活用場面が不明」

35.6%

商工中金調査

「具体的な活用場面が不明」という回答は、生成AIを積極活用している層では21.5%、それ以外の層では42.0%と倍近い開きがあります(出典:前出・商工中金調査)。何に使えるかが見えないことが、入口を塞いでいます。

同じ調査の自由記載には、経営者の声がそのまま残っています(出典:同調査の自由記載より)。

  • 「配車や定型事務が生成AIで自動化・効率化できれば省人化できると思う」(運輸業)
  • 「導入企業の成功事例を見てからしか動くことができない」(業種の記載なし)

ところが、その事例集がまだ世の中にほとんどありません。公的機関の物流向け事例集はロボットや自動配車といった設備投資型が中心で、月数千円で始まる生成AIの事例はまだ載っていません。生成AIの業務利用が広がったのがこの1〜2年で、公的な事例集が追いついていないためです。

研修の現場でも、業種を問わず同じ場面を見てきました。導入が動き出すのは、ツールの便利さを説明したときではなく、その会社の業務のどれに当てはまるかを1つずつ洗い出したときです。逆に、ツールだけ配って個人に任せた会社は、最初の数週間で使う人と使わない人に割れていきます。待っていても事例は来ません。先に始めた会社が、次の事例になります。

削れるのは運転ではなく、運転者が抱えている書類です

岩手県内で生成AIが使われている用途の1位は「文章の作成・要約・校正」67.6%です(出典:いわぎんリサーチ&コンサルティング『岩手県内企業景況調査』2025年10月調査)。運送会社に当てはめると、最初に削れる書類は3つに絞られます。

運行日報 任せる範囲:走行記録や口頭のメモを、決まった書式の文章に整えるまで。長距離のあとに事務所で書いていた時間を、車内での口述に置き換えられます。
人の仕事:時間や休憩の記録が事実と合っているかの確認。法令に関わる部分です。
荷主への連絡文 任せる範囲:遅延の連絡、日程変更の依頼、運賃の相談。書きにくい文面ほど初稿づくりに向いています。
人の仕事:金額と納期の確定と、送る前の読み直し。
点呼・車両の記録 任せる範囲:点呼簿や整備記録を、定型の書式に起こすまで。
人の仕事:内容の確認と責任。点呼と乗務の記録は法令で保存が義務づけられているため、ここは人にしかできません。

配車やルートの最適化は、専用システムが担う領域です。生成AIが受け持つのはその手前、人が手で書いている時間のほうです。運転の時間は1分も削れませんが、運転者と運行管理者が書類に使っている時間は削れます。

よくある質問

Q.何から始めればいいですか。

会社として業務を1つ決めて、小さく始めることです。全国の中小企業では「会社では導入せず、使うかどうかを個人の判断に任せている」が64.9%を占めますが、同じ調査で、会社主導で導入した企業のほうが経営へのプラス効果を感じる割合が10ポイント以上高いという結果が出ています(商工中金『中小企業の生成AIの利用にかかる調査』2026年1月調査)。個人任せにしないことが出発点です。

Q.ドライバーが高齢で、パソコンが苦手でも使えますか。

使えます。生成AIはスマートフォンの音声入力だけでも動くので、キーボード操作は必須ではありません。また、最初に効果が出るのは運転席ではなく事務所側の仕事なので、事務担当や運行管理者から始めて、現場には整った書式だけを渡す進め方が現実的です。

Q.情報漏えいが心配です。何に気をつければいいですか。

入力した内容をAIの学習に使わせない設定にすることと、入力してよい情報の線引きを社内で先に決めることの2点です。荷主名や運賃など取引に関わる情報は、伏せた形で使うのが基本です。ルールを1枚にまとめてから配ると、現場が迷いません。

Q.配車システムなどの専用システムを入れるのとは違うのですか。

違います。配車システムや動態管理は初期費用と月額がかかる専用の仕組みですが、この記事で扱った生成AIは、無料または月数千円程度から使える汎用のサービスです。専用システムの置き換えではなく、システムが受け持たない「書く仕事」を埋める関係になります。

Q.AI研修に助成金は使えますか。

厚生労働省の人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)が該当し、中小企業の場合は経費助成率75%、賃金助成が1人1時間あたり1,000円です(令和8年度時点)。実訓練時間10時間以上のOFF-JTが対象で、計画届は訓練開始の6か月前から1か月前までに管轄の労働局へ提出します。岩手県内の場合の申請先は岩手労働局です。

Q.生成AIとこれまでのAIは何が違いますか。

これまで運送業で使われてきたAIは、配車や需要予測のように決められた計算をする仕組みが中心でした。生成AIは文章や要約を作り出す点が異なり、日報や連絡文といった、これまで人が手で書いていた仕事に直接届きます。専用システムの導入とは別に、既存のサービスをそのまま業務に当てられるのも違いです。

採れない人の時間を、採れる仕事に使わせない

岩手で運転者は1.73倍、一般事務は0.23倍です。採れない人材と、余っている人材が、同じ会社の中にいます。それでも半数の会社は従業員10人以下で、事務専任を置けません。

全国の運送業の半分は「5年後もAIは限定的」と見ています。それでも岩手の運輸・サービス業は、県内でいちばん使っています。足りないのは道具ではなく、事例と、回す人です。どちらも、待っていては来ません。

誰が回すのかを決めるところから、一緒に組み立てます。

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この記事の出典(7件)
  1. 岩手労働局『常用求人・求職バランスシート(令和8年6月)』
  2. 全日本トラック協会『2025年度版 トラック運送事業の賃金・労働時間等の実態(本編抜粋)』令和8年7月1日公表
  3. 商工中金『中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年1月調査)』2026年3月31日公表
  4. 中小企業基盤整備機構『中小企業のAI等の利活用に係る実態調査』2026年3月公表
  5. いわぎんリサーチ&コンサルティング『岩手県内企業景況調査』2025年11月21日公表
  6. 帝国データバンク『生成AIに関する企業の動向調査』2026年
  7. 国土交通省物流・自動車局貨物流通事業課『貨物自動車運送事業者数(規模別)』令和7年3月31日現在

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